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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1332号 判決

控訴人 関東商事合資会社

被控訴人 川崎市商工信用組合 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。訴外関山茂七が、昭和二十九年二月二日被控訴人川崎市商工信用組合との間に、別紙目録〈省略〉記載の建物についてなした代物弁済を取り消す。被控訴人川崎市商工信用組合は、控訴人に対し同建物につき、昭和二十九年二月三日横浜地方法務局川崎出張所受付第一七九七号により、同被控訴人のためにした同月二日付代物弁済による所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。被控訴人土山忠蔵は、控訴人に対し、同建物につき、昭和二十九年二月十日同出張所受付第二三四六号により、同被控訴人のためにした同日付売買による所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求めると申し立て、被控訴人等代理人は、主文同旨の判決を求めると申し立てた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、請求の原因を次のように附加訂正して述べた外、全部原判決の記載と同一であるから、これを引用する。

被控訴人組合は、昭和二十八年二月二十七日訴外関山茂七との間に別紙目録記載の建物(当時建坪十一坪二合五勺)についてなした代物弁済の予約(これについては、同日付所有権移転登記請求権保全の仮登記がある。)とは全然関係なく、昭和二十九年二月三日当時被控訴人組合が関山茂七に対して有した金五十万円の債権の弁済に代えて前記建物にその後建増して現存するに至つた建物(建坪三十四坪五合)の所有権を移転する旨の代物弁済契約をなしたものであつて、右代物弁済契約は、控訴人の債権を侵害する詐害行為である。

仮りに昭和二十九年二月三日当時代物弁済契約がなされなかつたとしても、先に昭和二十八年二月二十七日になされた代物弁済の予約は、同日被控訴人組合が関山茂七に貸与した金三十万円の抵当権付債権についてなされたものであり、昭和二十九年二月三日になされた本登記は、右抵当権付債権三十万円の外に、抵当権の設定されていない別口の債権二十万円の合計金五十万円についてなされたものであるから、右別口二十万円の債権に関する部分については、詐害行為が成立し、取消の対象となる。従つて本登記は、仮登記のあつた三十万円の債権に関する部分と、不可分的に無効となる。

更に前述のように当初抵当権が設定された十一坪二合五勺の建物と、その後増改築がなされた三十四坪五合の現存建物とは別個の建物であり、前者についてなされた代物弁済予約の効力は、後者に及ばないから、本登記は無効である。

被控訴人等代理人は、右控訴代理人の主張を争うと述べた。

〈証拠省略〉

理由

その成立に争のない甲第一号証と原審及び当審証人関山茂七当審証人小川周市郎の各証言とを総合すれば、次の事実を認めることができる。

控訴人は訴外関山茂七に対し、

(イ)  昭和二十八年九月二日金六十万円を弁済期同年十一月十一日、利息月八分毎月末日支払、期限後は百円につき日歩金三十銭の損害金を支払う約定にて、

(ロ)  昭和二十九年一月十八日金百万円を弁済期同年三月十七日、利息、期限後の損害金(イ)同様の約定にて、

それぞれ貸付け、右各債務の担保として、関山茂七の所有にかかる神奈川県川崎市下平間百三十一番所在建物番号同町百三十一番の五木造瓦葺平家建店舗兼居宅一棟に抵当権を設定させ(イ)についてはその翌九月三日、(ロ)については、即日抵当権設定登記をなした。

しかるにこれより先、被控訴人川崎商工信用組合(当時川崎市商工信用協同組合と称した。)は、

(一)  昭和二十八年二月二十七日関山茂七に対し、金三十万円を弁済期同年八月二十六日、利息百円につき日歩金四銭毎月末日支払、利息の支払を怠つたときは期限の利益を失い、期限後は百円につき日歩金二十銭の損害金を支払う約定にて貸付け、右債務の担保として、前記建物に抵当権を設定させ、同日これが登記をなすと同時に、

(二)  同日関山茂七との間に、右(一)の抵当権の債務を弁済期に弁済しないときは、代物弁済として、右建物の所有権を移転することを約し、同日右約定に基く所有権取得請求権保全の仮登記をなした。

そしてその後、右建物については、

(三)  昭和二十九年二月三日横浜地方法務局川崎出張所の受付第一七九七号を以て、前記(二)の仮登記に基き、被控訴人組合のため、昭和二十九年二月二日付代物弁済による所有権取得本登記がなされ、更に、

(四)  「昭和二十九年二月十日同出張所受付第二、三四六号を以て、被控訴人土山忠蔵のため、同日付売買による所有権取得登記がなされている。

しかしながら、前記各証言とその成立に争のない甲第一、二号証とを総合すれば、右建物は、当初被控訴人組合が関山茂七に対し前記(一)の金三十万円を貸付け、これが代物弁済契約に基く(二)の仮登記をなした当時にあつては、その建坪は十一坪二合五勺に過ぎなかつたが、その後数次の増築により昭和二十八年十一月以降は建坪合計三十四坪五合に達し、(建物登記簿には、昭和二十九年二月三日付でその旨の変更登記がされている)、また一方前記(三)の本登記のなされた昭和二十九年二月二日当時被控訴人組合は、関山茂七に対し、(一)の金三十万円とは全然別個に金二十万円の債権を有し、同日右両債権の合計額金五十万円の代物弁済として、関山茂七は被控訴人組合に対し、本件建物の所有権を移転したものであることが認められる。

以上認定のように当初前記(二)の仮登記がなされた当時に比較して、代物弁済の目的である建物については、その建坪において約三倍余、従つてその経済的価値も著しく増大したばかりでなく、(その成立に争のない乙第一号証によれば、昭和三十年九月一日現在の価額は、昭和二十八年二月二十七日当時の価額の約二・三倍であることが認められる。)弁済すべき債務も、当初の約定の三十万円の外に、別個の二十万円をも包含することに鑑みれば、昭和二十九年二月二日になされた前記(三)の代物弁済は、当初昭和二十八年二月二十七日に締結された(二)の代物弁済契約とは、全然別個のものであり、従つて、(三)の所有権取得登記の順位は、(二)の仮登記の順位によることができないものと解するを相当とする。

それでは進んで、右(三)の代物弁済が、控訴人主張のように、債権者である控訴人を害するものであるかどうかについて判断するに、控訴人は関山茂七に対して、先に認定したように、(イ)(ロ)の元本だけでも合計金百六十万円の貸金債権を有するが、一方これら債権については、本件建物に抵当権を設定させ、その登記を経ていることも、先に認定したところであるから、控訴人は被控訴人組合の右建物所有権取得後も、これに対して抵当権を実行することが可能であつて、すなわち関山茂七被控訴人組合間の代物弁済による右建物所有権の移転は、控訴人を害するものではないといわなければならない。

してみれば、関山茂七と被控訴人組合との間に昭和二十九年三月二日成立した代物弁済が、詐害行為であると主張して、これが取消を求める控訴人の本訴請求は、その他の点についての判断をなすまでもなく、この点において失当であつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は、結局において、正当に帰するから、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 高井常太郎)

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